2014年8月17日(日)から4日間にわたって開催されたLife Seed Labo2014年夏期プログラム。このプログラムでは「ピザ作りでサイエンティストになろう」をテーマに、ピザ作りを通してサイエンティストとして必要な知識を国語、算数、理科、社会の教科学習に関連させて学びます。勉強も食べ物を食べるまでのプロセスと繋げて学習できれば、もっと楽しくなるはず!!人はそもそも食べるために生き、学び、働く生きものなのだから。
ピザを通した学びとピザが完成するまでのエキサイティングな4日間をご紹介したいと思います。
8月17日(日)1日目(国語):トマトを解剖しよう
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‘‘「トマトは甘酸っぱい」これは誰もがみとめる事実?それともあなたの意見?事実と意見を区別して話すことができるようになれば、科学的な表現ができるサイエンティストに仲間入りできるかも!?’’
このテーマを掲げ、ピザ作りの初日がスタートしました。収穫の夏を迎えたオークファーム柏の葉のガーデンには、形や色が異なるトマトが鈴なりに実っています。子ども達は、ピザには不可欠なピザソースを作るべく、食べごろのトマトを次々と収穫していきます。収穫ターゲットとなったトマトは、6種類(マイクロトマト、シンディオレンジ、シンディスイート、アイコ、イエローアイコ、サンマルツァーノ)。
1日目のミッションは、事実と意見の区別をつけた表現ができるようになること。そのための題材となるトマトの名前と特徴を学びます。
トマトの特徴を知るために、カットして解剖します。見てみると、中の様子が全く違うではありませんか!?ゼリーや水分が多いものと、そうでないもの。この違いは、実は日本とイタリアのトマトの食べ方の違いを反映したものなのです。
日本ではトマトをサラダなどのトッピングとして生食します。そのため、甘みが強くジューシーな品種が多くあります。一方、ピザの本拠地であるナポリのピザには、楕円形をした大玉トマトの品種「サンマルツァーノ」を使ったピザソースが使われています。サンマルツァーノはピザソースを作るために改良された品種。だから、手早く煮込めるようにジューシーさを押さえてあるため、ゼリー部分が少なくコクが出るような味という特徴をもっています。
子ども達は枝分かれしてきたトマトの成り立ちを聞き、日本とイタリアの食文化の違いがトマトの味や形にまで影響を及ぼすことを学びました。では、どれほど味が違うのでしょうか。この違いを言葉を用いて人に伝えるために、「事実と意見」を区別して表現する力が必要なのです。
いよいよ本題に入るために、子ども達にはトマトを試食したときの味を思いつくままに書き出してもらいました。食べたそばから出てきた表現は「マイクロトマトはやや甘い」「シンディスイートは酸っぱい」などなど。しかし、この表現では食べた人の個人的な意見が分かるだけで、他のだれもが分かるような表現=事実を述べた表現にはなっていません。そこで、意見から事実へと表現をレベルアップさせるために客観的な指標を導入することにしました。投入されたのは、糖度計とPh試験紙。
この指標によってトマトの甘さと酸っぱさが数値化され、客観的な甘さと酸味を記述することができます。この段階になって初めて事実を述べることができるのです。指標を使って確かめたあとの子ども達の表現はこのように変化しました。「サンマルツァーノはPH3、糖度5」「マイクロトマトはPH4、糖度8」これらを比べてどの程度の甘みと酸味なのかを事実として伝えられるようになりました。
トマトを解剖し、比較することを通して、意見と事実を切り分けて表現することができた子ども達は、話し方まで意識し始めているように感じました。ピザソースに使うサンマルツァーノについて学んだことを活かして、2日目のソース作りで美味しいトマトソースに仕上げましょう!!
8月18日(月) 2日目(社会):ソースで世界と歴史を旅しよう
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‘‘ピザソースには、トマトソースやクリームソース、ジェノバソースなど、色々なソースがあります。世界中にあるたくさんのソースを調べて発見し、世界旅行をした気分になってみよう!’’
2日目はトマトソース作り。トマトを収穫してカットし、煮込んでいる間にソースの起源を調べながら世界を旅します。社会科を学ぶ一つの目的に、様々な情報を調べるという力を身につけるということがあります。そこで、トマトがピザになるまでという歴史を紐解きながら、世界中に散らばるピザにまつわる史実をリサーチしていくことにしました。
トマトの起源は8世紀のアンデス地方で見つかった野生種とされています。その後、16世紀にスペイン軍によってメキシコが侵略された際に、トマトがヨーロッパに持ち帰られて欧州に広まったようです。200年ほど観賞用とされたトマトも、17世紀に発生したイタリアでの飢饉の際に食用となり、イタリア食文化の中で欠かせないトマトソースとして君臨していきました。18世紀にはイタリア南部の町、ナポリに初めてのピザ屋が誕生し、ピザとトマトソースが出会います。そんな紆余曲折を経て、今では世界中の老若男女に人気のトマトソースのピザが生まれたというわけです。
子どもたちもこんな歴史を学びながら、世界地図に歴史的イベントが起こった地をプロットしていきました。世界地図にプロットを落し入れてみると、トマトが長い時間と距離を経て、美味しいトマトソースへと生まれ変わっていったことが分かります。現代社会に当たり前にあるもの全てに起源があります。それらを残し、加工した先人達の営みがあったからこそ、一つの食べ物として、今に受け継がれてきたという事実そのもののが与えるインパクトはとても大きいように思います。この事実を調べながら歴史を辿っていく旅は、とてもエキサイティングで美味しいものではないでしょうか。
8月20日(水) 3日目(理科):イースト菌でピザをふくらませよう
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‘‘ピザのふわふわな生地は、どんな仕組みでふくらむのかな?生地をふくらませるイースト菌がどんな条件でよく働くのか比べてみよう。サイエンスに必要な’比べてみる”を通して、生地作りのコツもわかるはず。’’
3日目はいよいよピザ生地づくりです。生地づくりには科学実験がたくさん詰まっています。粉にイースト菌と砂糖とぬるま湯を加えるだけで、粉から生地へと変化し、それがさらにふくらむなんてとても不思議です。しかし、その背景を垣間みれるような知識を学び、実際に実験してみたら、その不思議も謎解きができるのです。そんな謎解きを教えてくれるのがサイエンスであり、理科の実験だと思います。その楽しさを体感すべく、生地をふくらませる実験を行いました。
まず実験では、条件を統制するということが鉄則。子ども達にも、比較したいものの変化が正確に計測できるように、その他の要因が影響を与えないよう慎重に実験することを話しました。例えば、計測の正確さも重要なポイントです。
今回の実験では、イースト菌が砂糖をエサとして、温かいところ(約30度)で増えていくという特性があることに注目して2つの実験を行いました。実験1では、砂糖の量を変化させ、イースト菌の働きを、発酵した時に発生する泡の量で検証してみました。実験2では、温度の変化でイースト菌の働きが変化し、生地のふくらみが変わるのかを検証してみました。
実験1で用いた3条件では、砂糖の量を0g、5g、15gに設定し、時間経過を見て変化を記録しました。子ども達はそれぞれに仮説を立て、砂糖の量が多くなるほど泡は多く発生するだろうという共通の予想でした。
結果を読み取るのも正確に、慎重に。メスシリンダー等実験器具の使い方も学びます。気になる結果は写真の通りで一目瞭然。(写真)5gの砂糖の時にイースト菌は泡を一番高く発生させました。子ども達の仮説と異なる結果となりました。しかし、よく観察してみると15gの方は5gのよりも遥かに小さく多くの泡が発生しています。ただし、泡の肌理が細かく詰まっているため、上に高くあがっていくような泡ではないことが観察から分かりました。このことから、もしかすると子ども達の仮説通り泡の数は砂糖の量が多くなるほど増える可能性が考えられました。ですが、ピザの生地をふくらませるためには生地を押し上げるほどの泡の力が必要になります。やはり、ピザ生地に入れる砂糖の量にだいたい規定があるのはそういったことも考慮してのことなのかもしれないですね。そんなことを話しながら、実験結果の解釈を料理を美味しく作ることの難しさからも考察できる実験となりました。
実験2で用いた3条件では、0℃、30℃、60℃に設定し、30分後の変化を記録しました。こちらでも仮説を立て、イーストが働く適温に一番近い30℃での条件で最も生地が大きくなると予想しました。こちらの結果も仮説を裏切り、ふくらみの大きさは60℃、30℃、0℃の順でした。イースト菌が働いた証拠となるアルコールの匂いも、60℃が一番強く感じました。この実験結果を踏まえ、子ども達と考察しました。今回の実験で用いた容器が少し小さかったことや、発酵させた時間が短時間だったため、60℃の条件でイースト菌が一気に発酵したのではないかと考えました。ピザ生地の発酵は実験の倍くらいの時間をかけてゆっくり行います。その場合は、イースト菌の適温とされる30℃で発酵させることでベストな生地になるのかもしれませんね。
実験終了後の生地は、ナンのように手で伸ばしてジェノバソースをつけて頂きました。美味しさは僅差で、いずれも美味しかったです。というのでは、サイエンティストとしてまだまだですね。次回の実験の際には、食べたときの食感や美味しさもキチンとレポートできるようにしたいですね。
8月21日(木) 4日目(算数):ピザのコストを計算してみよう
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‘‘1枚500円のピザには、どんな材料がどれくらい含まれているのかな?コスト計算しながら、材料を選んで、食べたくなるようなピザをデザインしよう。そして、4日間の学びがつまったピザをみんなで楽しく食べよう!’’
最終回の4回目、ピザ完成を間近に控えて子ども達に課せられたのは「ピザのコストを計算しよう」というミッション。普段、当たり前に食べているピザも、様々なコストがかかった上で1枚の値段がついて店頭で売られているのです。その背景には、材料を生産している人たちの労働や野菜が育つまでの時間があります。そんな舞台裏にも想いを馳せながら、せっせと切り詰めて材料を選んでいくという行為は、限られた資源を活かす人智の本来の使い方なのではないでしょうか。そこに、計算をする意味があるように思います。算数で養いたい本当の力は、ドリルが早くできることでも、九九が暗記できることでもなく、こうした生活の知恵として活用してこそ身になりますよね。
シーラボでのピザを食べるには1g単位で売られた野菜を500円以内におさめ、しかもデザインも食べたくなるようなものに完成させなければいけません。さぁ、大変。嫌いな計算をこれでもかというほど何度も何度も行わなければ、ピザにたどり着けないなんて…。本当はたくさんのせたい材料の取捨選択に頭を悩ませる子ども達の顔は、悩ましくもあり、興奮気味に輝くものでもありました。ピザの材料を1g単位の値段で計算し、カットの方法を切り詰めて考えたりしながらの算数の勉強はとても楽しいようです。
個性がにじみ出る選択のプロセスを経て、オリジナルピザのデザインがようやく決まったようです。いよいよ、猛烈な火をふくピザ釜でカリッと焼く時がやってきました。ピザを焼いている間に交わされるシーラボの子ども達の会話も少し変わっています。「チーズ何g使った?ピーマンは?」などと、材料をg換算でどれだけ入れたか聞き合っています。あれだけ計算してやっと手に入れたピザだから、こうなるのも納得です。よく頑張りましたね!
4日間もかけてようやく目の前に完成したピザは格別に美しく、空腹を刺激する香ばしい香りを放っていました。1枚のピザにたくさんの学びが詰まっています。トマトソースにも、生地にも、のっている具材にも、デザインにも、全てに愛着が湧く、これぞオンリーワンのピザです!!ピザに食いつく子ども達の顔には満面の笑顔と達成感があふれていました。
全てが満たされている世の中では、なぜ学ばなければいけないのか、どのように生きていけばいいのかを考える機会が少ないように思います。シーラボでは、そんな世の中に本当の学びの楽しさと、豊かに生きていくための方法を少しでも提案できればと思っています。今後も楽しい学びの機会を食べ物を通してお伝えできれば幸いです。